ご依頼当初は「初診相談の説明力を上げたい」というお話でした。事前の打ち合わせで、そのために必要なのは実は「聴く力」だという意識合わせを改めて行い、課題の抽出に取り組みました。
岩下
竹元唯先生が私の講演を受講されたのがきっかけで、今回のご依頼をいただくことになりました。
6年も前の講演だったのに、思い出してくれてとてもうれしいです。
竹元先生
書類を整理していたら、日本⻭科大学附属病院での講演のレジュメが出てきたんです。私はあまり資料を保管しないほうなのですが、熱心に自分の目標を書き込んだメモまで残っていて。
思わず手を止め、「当時の自分が今の自分を見たら、どう感じるだろう」と読み返しました。とても面白い講演だったという印象です。
ありがとうございます。背景には、どのようなお困りごとがあったのでしょうか。
竹元先生
当院で行っている初診相談について、「これで良いのだろうか」という漠然とした問題意識がありました。きちんと患者さんに説明できているか。また、その後の受診につながっているか。私からスタッフに示していた方法が、ベストかどうかも分かりませんでした。
専門的な意見を聞きたいと思っていた矢先、ちょうどレジュメが出てきたんです(笑)。
山下様
私も受付担当として経験を重ねてはいたものの、説明に自信が持てずにいました。
患者さんやスタッフとの年齢差も気になるようになり、「時代遅れのスキルではいけないな」と。研修を受けられると聞いて、「新しいことを学んで成⻑したい」と思いました。
打ち合わせ当初は、効率よく最大限に伝えるための「プレゼン力をつけたい」というお話でした。ただ、伝えるためには、相手が求める情報を正しく把握しなくてはなりません。
そこでテーマを「聴く力」にフォーカスしてはどうかと提案しました。
山下様
思ってもみない視点でした。医療現場に求められる説明責任を自覚していたからこそ、「聴く力」とは逆のことを考えていましたね。
過去には「言った」「言わない」で行き違った苦い経験もあり、とにかく予定時間内に漏れなく説明することを最優先にしていましたから。
竹元先生
普段から「院の特徴を分かってもらいたい」と意識するあまり、伝えることで頭が一杯だったのかもしれません。自分たちで気付けない課題を示してもらい、本当に良かったです。
実は打ち合わせ前、「皆でビデオ撮影して確認したら、色々と課題に気付くのかな」なんて考えていたんです(笑)。そんなギスギスするようなこと、わざわざしなくて正解でした。
課題の抽出段階から力になれて良かったです。一方的にではなく、相手を意識して話す「双方向性」は、ビーユアセルフが大切にしている視点の一つでもあります。
竹元先生
自分たちのやり方を変えるのは、勇気がいりますよね。スタッフに今回の研修を提案する際、「面倒だな」「今のままでいい」と嫌がられないか少し緊張しました。
でも実際は、外部から指摘してもらうほうが素直に受け入れやすかったのかもしれません。想像以上に楽しんで学んでくれたようで、ほっとしています。
岩下
ワークショップは基本的な接客から出発し、初診相談に求められる姿勢や技術が身につくプログラムにしました。感想をお願いします。
竹元先生
私たちにとって一番大切なのは、患者さんとの信頼関係です。伝えるべきことはもちろんあるのですが、そこに信頼がないと、そもそも相手にも聴く耳を持ってもらえないんだなと。
まずは相手の思いを聴いて受け止めること。日常に追われて忘れかけていましたが、あらためて気付けて本当に良かったです。
山下様
研修後、「聴く」という意識が確実に高まりました。大きく方法を変えたわけではないのに、私が話す時間が減り、患者さんの話に耳を傾ける時間が増えました。
ロールプレイでは、あいづちや復唱などのポイントを押さえ、傾聴する立場に徹してもらいました。
また、オブザーバー役の人が距離感や目線、情報収集の様子をチェックし、フィードバックしてくれましたね。
竹元先生
「(聴く立場なのに)こんなにしゃべっちゃうんだ!」と、いかに自分が聴けてないかを痛感しました。そして人は相手が聴いてくれると思うからこそ、安心して話せるんですよね。
研修後、私も「まずは聴く」と心で唱えてから、患者さんに向き合うようになりました。現状はそれで精いっぱいなのですが、いつかしっかり聴けるようになったら、今度こそ説明する力も磨きたいと思います。
たとえ間が生じても、「話さず待とう」と覚悟できるか。これも傾聴のポイントです。ワークショップ後、具体的な変化を感じたことがあれば教えてください。
山下様
説明を繰り返さずとも、その先の検査まで進める患者さんが増えたように思います。お互いの距離が縮まってきたのかもしれませんね。
あるお子さんが受診された際、医師からの説明までに30分ほどの待ち時間ができてしまったんです。以前の私なら、間を持たせるために契約書をゆっくり読み上げていたと思います。
でも今回は「お母さんの話をちゃんと聴こう」と決め、あえて説明を控えることにしました。すると、普段感じていたという疑問や悩みを止めどなく聞かせてくれたんです。心が通じ合ったように感じましたね。
学んだことを生かしていただき、とてもうれしいです。ワークショップの締めくくりには、スタッフの皆さんの悩みや課題を出し合い、話し合う時間も設けました。
竹元先生
「そんなことを意識していたんだ」「なるほどな」という発見があり、とても新鮮でした。
スタッフの一人は、患者さんの緊張をほぐすために「今日は暑いですね」などと話し掛け、アイスブレイクを実践してくれていたんです。このようなスタッフの力は、今回のディスカッションのような機会がないと気付けなかったと思います。
岩下
矯正⻭科の患者さんは、さまざまな思いを抱えてクリニックの扉を開けるのだと思います。その心を受け止めるという意味でも、初診相談の担う役割は大きいですね。
今後の抱負や、ビーユアセルフへの要望があればお聞かせください。
山下様
「聴く」前には「見る」ステップが必要だということも教えていただきました。
待合室などでの様子をよく観察し、患者さんの気付いてほしいこと、聴いてほしいことを察知できるようになりたいです。後輩にも「こうすれば良いんだな」と参考にしてもらえたらうれしいです。
竹元先生
一人でも多くの人がきれいな⻭並びを手に入れ、自信を持って笑ってほしい。また、舌側矯正の可能性を広げた院⻑の夢を、引き継いでいきたい。スタッフが気持ちよく働けたら、患者さんにも同じように対応できると思います。より良い職場環境にするため、個別面談や相互評価の検討も始めました。
個人的には、学会発表にも生かせるプレゼンスキルを身に付けたいですね。いつか教えていただきたいです。
「聴く力」を軸にしたコミュニケーションで、皆さんの信頼関係が深まると良いですね。
今回はありがとうございました。
お2人とも、本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。
(写真左から)竹元先生、岩下、山下様